「G・I にて U」-06
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このメンバーをまとめるジンも大変だ‥‥。
打ち合わせでアイディアがたくさん出るのは良いが、皆が口々に勝手な
ことを言い、ジンが溜息をついた所で助け舟を出すようにカイトさんの声。

「あの‥‥食事、出来ました」

‥‥あ、カイトさんが‥‥!
そうか、カイトさんがメシを作ってくれたのか!!
気が付けばホールにまで良い香りが漂って、現金な腹の虫がグゥと鳴る。
勇んでダイニングへ向かえば、熟したトマトと香ばしいガーリックの香りが
益々強くなる。リストさんのメシも美味いけど、材料は何だか分からないし、
熱いんだかヌルいんだかも分からない謎の料理が多い。
手下が作るメシはまぁ、素材の味が生きまくってるというか、要は煮るか
焼くかしただけの肉。
エレナとイータの料理は‥‥‥‥‥論外だ。
とにかく、こんな美味いメシを食ったのは久しぶりだ。
緑のパスタは、ほうれん草の味がする。黄色いパスタは卵が多いのか、
食感がモチモチしていて美味い。
トマトのソースも、クリームのソースも、特別に凝った料理ではないのに、
とにかく美味い。
あっと言う間に大皿は空になるが、いつの間にか席を立っていたカイトさんが、
すぐに奥からホカホカのお代わりを運んでくる。

「すごく美味いっス! 大変だったでしょう」

「あ、いや。‥‥‥いつもやってるから」

フォークを握る手が、一瞬止まった。
いつも‥‥やってる、か。
ジンを見れば、メシを作ってくれたカイトさんを労うでもなく、ドゥーンと
大笑いしながら話している。
彼女を気にかけている様子は全く無い。
ジンにとって、この美味い料理は特別なものじゃないんだ。
毎日食卓へつけば、湯気の向こうにカイトさんの笑顔。
ハントから離れて二人きりの食卓では、カイトさんも少し女性らしさを
取り戻すのかもしれない。


『美味いよ』

『そう? 味濃すぎない?』

『いや、丁度いいよ。カイトの作るメシなら、何でも美味いよ』

『もう、ジンってば! それって誉めてるの?』


なぁんて‥‥‥‥‥くそっ、相変わらず羨ましい男だ‥‥。

「‥‥さん、レイザーさん?」

「ふぇ?は、はいっ!?」

妄想に夢中になり、カイトさんに話しかけられてるのに気づいてなかった。
バカか俺は。キッパリ諦めるって決めただろうが!
いや、でも、羨ましいもんは羨ましい‥‥。

「あ、すいません。考え事してました?」

「いやいや、こっちこそ‥‥あの、なんスか?」

「大したことじゃないです。レイザーさんはいっつも何食ってんのかなって‥‥」

「肉ばっかりっスよ。塩振って焼いただけの」

「肉‥‥‥やっぱ、肉食わないとダメなのかな‥‥」

カイトさんは自分の二の腕を掴んで、ちょっと眉を寄せる。
腕もやっぱりすごく細くて、掴んだ手の平が一周しそうだ。

「‥‥? 肉食わないと、何がダメなんスか?」

「え、あ‥‥‥いや‥‥」

「‥‥??」

「あの‥‥俺、細いから‥‥もう少しその、レイザーさんみたいに‥‥」

細いから? 俺みたいに‥‥‥?
筋肉付けたいってことぉ!?
や、止めてくれよっ!
マッチョな彼女なんて見たくないっ!!‥‥と、これも偏見か‥‥。
この世界で、女性がやっていくのは大変なのだろう。
常に荒っぽい男たちの好奇の視線に晒されれば、筋肉の一つもつけたくなるというものだ。
苦労したんだ。可哀想に‥‥。でも‥‥‥華奢がいいって訳じゃないけど、
今のままですごく‥‥その‥‥‥‥‥素敵なのに。
俺もジンも、どっちかというとこう、ボンッと出てキュッっていう女が好きだったけど、
カイトさんの清楚な魅力の前では、そんな女達はすっかり霞んでしまう。

「同じもの食って同じ筋トレしても、筋肉の付き方は人それぞれだから。
バランスの良い食事が一番! カイトさんのメシは、満点っスよ」

「はは、どうも」

照れた笑顔も可愛い。くそぅ‥‥ジンはいつも湯気の向こうでこの笑顔を(以下略)

「パスタは簡単だから。そんな凝った料理は俺、作れないし」

「いや、これだけの料理を一人で作るなんて俺には想像も出来ないッスよ。
毎日の肉料理も、ゲームの進行に必要だから手下雇ってて、そいつらが作るんです。
こっちではリストさんが作るみたいだけど」

「じゃあレイザーさんは、いつもはココに居ないんですか」

「そう。ジンが居る間だけ。普段は体育館で寝泊りっすよ」

「体育館?」

「そこでプレイヤーとスポーツ対決するんです。
で、俺を倒したらSSランクのカードが手に入る」

「へぇ、スポーツ対決ですか」

「うん。でもゲームの発動条件が難しいから、まだ当分プレイヤーは来ないかな。
だから体育館も時間をかけて施工して、昨日やっと全部完成しました」

カイトさんの表情に僅かに好奇心の色が宿るが、それを顕にしないところが
すごく彼女らしい。
体育館、見たいかな? 俺は見せたい。
俺の自慢の城だから。

「そうだ、メシ食ったら遊びに来ませんか。体育館に」

ジン、いいよな?
誓って言うよ。下心はカケラもない。
アンタの彼女に見せたいんだよ。アンタが俺に与えた居場所を。
俺はあなたの大切な人に救われたって、カイトさんに知って欲しいんだ。

「いいですね」

屈託の無い笑顔に、俺は少しだけ顔が熱くなるのを感じた。


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