「G・I にて Ⅱ」-05
------------------------------------------------------------------------

こい、びと‥‥‥。
カイトさんが、ジンの恋人‥‥。

再び動かなくなった俺に双子が同時に顔を向ける。

「レイザー、大丈夫?」

いや、大丈夫じゃない。
まるで体中に拘束着を巻きつけられたみたいに、動けない。

「免疫なければショックかもね。全然気づかなかったの?」

あぁ、まるで気づかなかった。

「まぁ‥‥気持ちは分るけど」

分るなら、前もって教えてくれても良かったじゃないか。
あの姿だ。誤解するのは当然だ。
俺は何か、失礼なことを言わなかっただろうか?

「顔色悪いわ。少し部屋で休んだら?」

「‥‥悪いけど、そうさせてもらうよ」

「うん、ゆっくりね。
ショックだろうけどレイザー、偏見は良くないわ。
愛し合ってるのよ。暖かく祝福してあげて」

‥‥‥‥偏見?
最後のイータの言葉が少し引っかかったけど、深く考える余裕はなかった。
俺は重い石を飲み込んだような気分で、またも部屋のベッドに倒れこんだ。



カイトさんが、ジンの恋人‥‥。
と、いうことは、カイトさんは当然‥‥‥。

誤解していた。全く気づかなかった。


カイトさん‥‥‥カイトさんが‥‥‥‥‥‥。



女 性 だ っ た な ん て‥‥‥‥! 


ジンの弟子と聞いて、何の疑いもなく男だと思っていた。
しかし女性と知ってショックではあるが、不自然なことはない。
むしろずっと自然だ。
ヒラヒラのスカートや口紅は、野山に入ってハントをするには無用のものだ。
薄い胸は、元々小さいのをサラシでも巻いて、激しい動きの邪魔にならない
ようにしてるのだろう。
確かに女性にしては上背があり骨格がしっかりしているが、最近の女の子は
発育が良いし、あの程度の身長ならモデルや芸能人ならザラだ。
柔らかな声は、まだ完全に声変わりを終えていない少年だからと思って
いたが、単に地声が若干低めなだけらしい。
背の高い人は、声が低くなるものだ。
多少低くても、鈴を転がしたような優しい声音。抱きしめれば折れそうな細い腰。
全ては彼が‥‥いや、彼女が女性であることを示していた。
カイトさんを初めて見た時の、あの胸のざわめき。今となっては納得がいく。
俺の男としての本質は、カイトさんが女性であることに気づいていたのだ。
つまり俺は、恋をしていた。
ボーイッシュな魅力を持つ、春風みたいに涼しげな瞳の女性に恋したんだ‥‥。



ショックだろうけどレイザー


あぁ、ショックだ。
知り合った瞬間恋をして、恋をした事にも気付かず、気づいた途端に
失恋したんだから。


偏見は良くないわ


偏見て何が?
女性が男にまじってハントをするのが気に入らない?
師匠である男と、体を重ねる関係になるのはふしだらか?
馬鹿な。そんな偏見を持つほど、俺は頭が固くない。
カイトさんが女性だと知りショックは受けたが、彼女に非など全くない。
俺は粗野で気の利かない男だが、世の中に身心共に優れた女性が
たくさんいる事くらいは知っている。
異性に恋をする気持ちは、相手を選ばず突然やってくることも。
でも確かに偏見だったのかもしれない。
ジンの弟子で。ハンターの卵というだけで。
鍛えられた身体と胸が薄いというだけで。
彼女を男性だと思い込んだ。


愛し合ってるのよ。暖かく祝福してあげて。


もちろんだ。
俺も男だ。彼女の相手があのジンならば、潔く諦めよう。
志の低い男が邪な気持ちで彼女にまとわり付くなら、俺が拳でブチのめし、
そいつの汚い姿を二度と彼女の瞳に映すことはしないだろう。
でも、相手があのジンならば‥‥。
彼女を任せて、これ以上安心な男はいない。
多少気の多い奴なのが、気にはなるが。
もしも、ジンが他の女にうつつを抜かして彼女を泣かせたら‥‥‥。
いいさ、そん時は、やっぱり俺がブン殴る。殴り返されるだろうが、だったら
俺もブン殴り返す。
そして彼女をさらって行くよ。でもさ、ジン。
初めて見た彼女は、アンタの後ろに隠れるように立っていた。
心からの信頼を寄せる男に、阿るように身を寄せていた。
全く似合いの二人だったんだ。
だからさ、頼むよ。彼女を幸せにしてくれ。
彼女が幸せなら、俺はキッパリ身を引いて、二人を祝福する仲間になろう。
G.Iのメンバーは皆一流の念使いでアクの強い人が多いから、仲間といっても
カイトさんは、やはり一歩身を引いている。気を使うことも多いだろう。
だから俺はせめて、彼女の気の置けない対等な仲間になろう。
愚痴も楽しいことも、何でも話せる友達になろう‥‥。

部屋を出れば、ホールにはぼちぼち人が集まり、自然ゲームの
改善作業の話になったようだ。
俺は軽い足取りで階段を降り、笑顔で話の輪に加わった。


→Next                  (050423)
------------------------------------------------------------------------
→トップ