「G・I にて U」-03
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「もーーーっ!!やっと来たと思ったら、もう居ないしっ!」

城に入った途端、ジンはほとんど捕獲に近い状態で双子に連行される。
こっちはこっちで、ドゥーンからお呼びがかかる。

「山賊の村にある谷な、地盤そろそろヤバいから崩れる前に崩すわ。
ブル出すからお前も来てくれ」

「わざわざドゥーンが?」

「そっくらいオメー、自分でやるさ!
ずっと城にいたら体がなまっちまっていけねぇ」

「あ、そうだレイザー」

グイグイと双子に引かれるジンが振り返る。

「明日カイトって奴来るから。初めてだよな。
お前とは歳も近いし、よろしく頼むわ」

「いーからもーー早くっっ!!」

「あ、ねぇレイザー! ジンが居る間はこっちでしょ?
部屋は適当に選んでね。
キッチンにお昼あるから食べてねー」

「はぁ」

何だかよく分からないが、俺はもつれるように遠ざかる3人に、
まぁ適当に返事をした。


土木作業は楽しかった。
俺が土砂崩れを起しそうな場所をガンガン崩して、ドゥーンが鼻歌を歌いながら
ブルトーザーで器用に慣らしていく。手ごろなトレーニングだ。
体を動かせば腹が減る。そういえば昼飯が用意してあると言ってたっけ。
リスト、今日は何作ったのかな。
料理はリストの数多い趣味の一つで、城の食卓には毎日色んな国の珍しい
メニューが並ぶ。
時には珍妙なものを食わされて、ちょっとしたギャンブル気分も味わえる。
普段の俺の食事は雇ったばかりの手下達が作るが、男の手料理そのまんまの
肉料理ばかりで繊細さのカケラも無い。
栄養はあるし不味くはないから不満はないけど、たまには変わったもんが
食いたいもんな。

「あー腹へった。メシにしましょう」

「ぅヴ? う、んぅ‥‥‥」

ドゥーンは返事とも唸りともつかない声を上げて、俺の後ろを妙に
ノロノロと歩いてくる。

「‥‥? 腹減ってないんスか?」

キッチンに入る直前にドゥーンを振り返り、再び前を向いた俺は‥‥‥絶句した。
バカでかい大皿に、黒ともこげ茶ともつかないグズグズの物体が盛られている。
というか、溢れている。

「‥‥こっ‥‥‥これは‥‥‥‥‥」

「あぁ、エレナだ。パンケーキらしい」

「‥‥‥‥」

「しかもパンの中のジャムまで手作りだ」

「‥‥‥‥‥‥‥」

「こないだの休暇に何を思ったか料理教室に行ったんだと。
大張り切りなんだよ、手に負えねぇ」

せめて‥‥‥せめてイータが作れば‥‥(まだ少しは)マシなのに‥‥‥。

「ジンが居る間、お前を城に呼んだ理由の1つだ。
その間リストはパソコンから手が離せねぇからメシは作れねぇ。
なに、大したことじゃねーよ。
ほんの6分の1だ。キッチリ食えよ。
残したら、明日から島の安全は無いと思え!」

「は、ぁ‥‥‥」


傍に寄れば、甘いんだか酸っぱいんだか苦いんだか、何ともいえない匂いがする。
俺は突き刺さる匂いに細い目をシバシバさせながら、その場に立ち尽くした。




ぅえ‥‥‥参ったな‥‥。




吐き気を堪えながらノルマを果たした俺は、フラフラになりながら階段を登り、
空き部屋のベッドに倒れこんだ。
胸に手を当てて呼吸を整えながら、ほんの少しおかしくなった。
食うこともままならなかったガキの頃を思えば、贅沢な話だ。
舌は痺れたみたいに感覚がないが、心はこんなにも穏やかだ。
人を殺め罪を重ねた俺が、腹を満たし、心穏やかに人と交わっている。

人間、どうなるか分からないもんだな‥‥。

天井を見上げれば、煌びやかな照明が目に入った。
スプリングが効いたマットレスは、体が宙に浮かんでいるかのようにフカフカだ。
短い間なら良いが、少し落ち着かない。
体育館裏の自室に持ち込んだ、軍隊用のゴツいパイプベッドが性に合っている。
普段使われないベッドにシーツが無いことなど、まるで気にならないが、
客間のベッドは自分だけが使うわけではない。
自分の後にベッドを使う人の為にも、リネン室からシーツと枕カバーを持ってくるか‥‥。
そういえば、明日もう一人合流するとジンが言っていた。
カイトさんか。噂には聞いているけど、今ひとつジンとの関係性が理解できない人だ。
皆に聞いても、どこか返事が曖昧なのだ。

ジンの元で修行に励んでるというから、「弟子なのか」と聞けば
ドゥーンは「そうだ」と言い、
リストは「弟子というよりは家族というか‥‥」と言い、
それを受けたイータが
「もう保護者って感じじゃないわ。仲間じゃない?」と言って、
最後にエレナが
「仲間ぁ? そんな関係、とうに越えちゃってると思うけど」と言う。
何だか分からないが、まぁ会えば分かるだろう。
どんな人物であろうと、ジンに付いて修行してるなら一筋縄でいかない
奴なのは間違いない。
楽しみだ。皆忙しそうだし、俺が彼の部屋を用意しとくか。

気が付けば、胸のムカツキも大分収まっている。
俺は立ち上がり、まだ見ぬ仲間を迎える為の準備を始めた。


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