「本当にバカバカしいジンカイ童話」-01
------------------------------------------------------------------------
如月 花の頃。
今が見頃と枝垂れ落ちる八重桜。
湖畔をそぞろ歩く二つの影。
真ん丸なお月様がぽっかりと湖上に浮かんでおりました。
「キレイなもんだな」
「‥‥桜、夜でも水面に映るんですね」
「月が明るいからなー‥。ちょっと遠回りして、池をぐるっと周って帰るか」
「はい」
こんな他愛のない会話でも、率直過ぎる愛の言葉を間に持てない二人にとっては
甘いすぎるほどの恋の囁き。寄せ合うでもなく肩を並べて歩き
夜露に少しばかりの湿り気を帯びた草むらで、男の歩調が殊更遅くなりました。
「‥‥ちょっと休んでいこうぜ。月見と夜桜見物だ」
「‥‥‥‥」
「たまにはのんびり行こうぜ?」
男は穏やかな口調で言うと少年の手を引き寄せて岸辺の斜面に腰を降ろしました。
一言、二言、短く会話を交し花の香りを含んだ沈黙が二人を包むと
男はそっと少年を抱き寄せて、その唇に優しく口付けました。
少年は大人しく身を任せておりましたが、男の舌が柔らかな唇を這い、腕に力が
籠もるのを感じると慌てて顔を逸らしました。
「‥‥‥ダメ‥‥誰か来たら‥‥‥」
「誰も来ねぇよ、こんなとこ」
「でも‥‥‥‥」
「‥‥‥カイト‥‥」
堪えきれなくなった男は少年を抱きすくめ、そのまま草むらへ押し倒しました。
カイトと呼ばれた少年は、頬に桜、瞳に湖の色を映し、草に散らした髪には
月の光を映して体中が眩いばかりに輝いておりました。
その儚げな美しさはまるで月の精のよう。
今にも消え入りそうに羞じらう風情を愛しげに眺めながら、男の手が少年の
細く白い体をまさぐります。
「‥‥‥いや‥‥‥こんなとこで‥‥」
「‥うん‥‥‥」
「‥‥あっ‥ん‥‥ぃや‥‥‥こんな、明るい‥‥‥」
「十分暗いって‥‥もう夜だ」
「‥‥‥‥だって‥‥月が、あんなに‥‥‥‥‥‥‥‥」
少年の言葉に男は微笑むと、不安げに見開かれた瞳に唇を寄せて
目を閉じさせ、薄い瞼に口付けたままで言いました。
「‥‥ほら、これで真っ暗だ。もう恥ずかしくないだろ?」
こっ恥ずかしい 優しい言葉を囁かれ
少年はうっとりと夢見る表情になりました。
‥いっか‥‥‥いつも拒んでばかりじゃ、嫌われちゃう‥
少し夜風に酔ったのでしょうか。
いつもは頑なに戒められた少年の理性の箍が、男の移り気を言い訳にして
ほんの少し緩んだようです。男はそれを見逃さず、ますます大胆に
少年の衣服を乱しました。
「あ、嫌‥‥‥」
さすがに羞恥が込み上げて少年が僅かに体を捩ると
その細腰の艶かしい動きに欲情を限界までそそり上げられ
男はほんの一瞬、今日の目論見を忘れてしまいました。
性急に少年の大切な部分の形を布越しに確認すると
決して言ってはいけない類の言葉を思わず口にしてしまいました。
「こっちのカイトは、嫌がってないみたいだぜ?(にやり)」
「―――――――‥‥‥っっっ!!! やっ‥‥‥!!//////;;;」
「しまっ‥‥‥ちょっ‥‥今の嘘嘘嘘っっ!!今の無しっ!!
わ、悪かったってっ‥‥あ、暴れんなっ‥‥‥――!」
「嫌ったら嫌ったら嫌――――――っっっ!!!!!!!!!!!」
どんっ
何という事でしょう。
桜が固い蕾をつけだした頃からの計画を、ほんの一瞬の気の緩みで
台無しにしてしまった男は、少年の華奢な腕に突き飛ばされても
踏みとどまることも出来ず、情け無い表情を浮かべたまま斜面を
転がり落ちて行きました。
ぼっちゃん
「あぁっ!!ジンさん‥‥っ!?」
一体誰が突き飛ばしたんだとツッコミたくなるほどの
慌てた様子で少年は湖の淵に駆け寄りますが
深く暗い夜の湖に飲み込まれた男はいくら湖面を覗き込んでも
浮き上がってきません。
助けなきゃ‥‥‥俺、泳げないけど、でも‥‥
決死の表情で上衣を脱ぎ捨てた時、急に辺りに
濃い霧が立ちこめ水面にはブクブクと大きな泡が立ち
その中に一人の女の姿が浮かび上がりました。
→Next (040614)
------------------------------------------------------------------------
→トップ
|