「DRUG STORE HUNTER×HUNTER」-02 ------------------------------------------------------------------------ 寝室に入るとキングサイズのベッドがデカデカと部屋を占拠している。 以前のダブルベッドも寝心地は良かったが一般成人男性の平均を上回る 体躯の男が二人、愛を語るのには少々小さすぎた。 涼しげな目元と淡い白金の髪はそのままに、カイトは大人の男になった。 着痩せする性質だし元々それほど肉が隆起しない体質ではあるが、鍛え 抜かれたしなやかな筋肉は過不足なく全身を覆い、長い手足に見合う 均整のとれた長身は今では僅かにジンを上回る。 成長したカイトにやっと欲求の趣くままに求める事を許されたジンは存分に 己を解放し、その勢いに弾き飛ばされたカイトがベッドから転げ落ちたのを 機に、店で一番大きなサイズのベッドを購入した。これを機会に小さくても よいからシングルベッドを2つ買おうとカイトは主張したのだがあっさりと ジンに却下された。 ‥‥いいけどな。ジンさんがそうしたいってんなら。 ジンが望むことなら出来る限り叶えたい。いや、叶えなければ危険なのだ。 いつの頃からだったろう。ジンの迸る情熱をカイトが無理なく受け入れられるように なった頃。そろそろハンター試験を受けようと考えていた頃だ。 保護者としての責任から解放されつつあったジンに別人格が現れ始めた。 果てしない欲望を胸に秘め邪悪な企てを謀る。白昼から好色な視線を隠そうともしない。 別人格が現れた時のジンさんは、あれはジンさんじゃない。 幼なかった俺がもどかしくなるほど自分を抑え 俺の意思を尊重してくれたジンさんはもう居ない‥‥。 だが今になって思えば昔のジンが別モノで単に本来の姿を取り戻しただけな気もする。 そんな劣情に満ちた謀には謀をもって対抗してきたカイトだったがベッドを共有したいと 言われれば素直にそうするし、夜毎の営みも出来る限り受け入れる。体はキツいが決して 嫌な事ではないし、何よりそれまで拒んでしまっては空腹に追い詰められた猫はさらに 狡猾な罠を張り、逃げ惑う哀れな鼠を頭から丸呑みにするだろう。だから滅多なことでは 断わらない。無理なくコンスタントに発散させるのがお互いの為というものだ。 とはいえ、ひたすらにジンに付き従っていた昔ならいざ知らず、カイトにだって色々都合と いうものが出来てきた。ジンの要求に応じられない夜もある。しかし今までカイトの やんごとない事情による拒絶が受け入れられた事は皆無に等しかった。 それを詰ればジンはきっとこう言うだろう。 「何か誤解があるようだな。俺がお前の嫌がることをするわけないだろ。 無理強いなんてモテない男がすることだ。俺はいつだってお前の意思を尊重してるぜ?」 確かに無理強いはしていない‥‥‥‥‥していないけど‥‥‥。 圧し掛かる肩を押し返し今日はダメだと伝え、その理由も説明する。するとジンは 不思議そうな顔で首をかしげる。 『‥‥よく分からねぇな。もう一度説明してくれ』 "赤ちゃんて、どこから来るの?"そう母親に問う子供みたいに無邪気な口調。 この台詞が出た時点で望みは絶たれたと言ってよい。ボソボソと同じ話を繰り返す。 納得した表情で頷くジン。そしてニッコリと微笑むと 『よく分かんねぇけど嫌ってんなら仕方がねぇな。じゃ、お休みのチューだけなっ!』 言ってカイトの肩を抱き寄せる。もちろん抗うが 『いいじゃねぇか、チュッってするだけ!なっ?』 強引に唇を重ねてくる。 チュッ‥‥ンーーーーー‥ンク‥‥クチュッ‥‥チャプチャプ‥レロ‥‥(中略) ‥クチュレロ‥‥ペロペロ‥‥ンチュ‥(中略)‥チュク‥ン‥ンン‥‥‥チュ! 『‥‥‥‥さ、チューも済んだし寝るとするか。  ん? どうしたカイト、ぼんやりしちまって‥‥』 ジンの戯言も痺れきった頭には聞こえない。強烈な目眩にフラフラと倒れこむ。 その体を抱きとめ薄ら笑いを浮かべるジンに忌々しさを感じる余裕もなく いつにも増して乱れに乱され黄色い太陽がやけに眩しい朝を迎えるのが常だった。 不甲斐ない日々が思い返されベッドにへたり込む。 いつもと同じように拒んでも今日もきっと結果は同じだろう。策を弄すしかない。 策を弄して何とかジンの要求を退けたい。 何故なら明日はカイトの年に一度のお楽しみ。ハンター協会が行う健康診断の日だ。 強制ではないしジンは面倒くさがって一度も受けたことがないが カイトは健康診断が好きだった。特に念の検査が楽しい。 測定器具の前で練を行いその純度を調べる。後日郵送される検査結果で 『不純物:0% 評価:AAA』の文字を見ると思わず頬が緩む。 次に好きなのは身長測定、体重測定、視力検査に聴力検査。心電図を採るのも 大好きだ。検査中、自分の体の情報が機械に写し取られていると感じるとワクワク する。胃カメラは苦手だけれど自分の胃の中がモニターに映し出されると その脅威のテクノロジーが体の悪い所を見つけてくれるのだとドキドキし 苦しいのも忘れてしまう。検査結果で健康体を確認し去年と見比べ数値の相違を 発見し、その変化の理由を考えるのはカイトにとって最も楽しみな年中行事の一つと 言っていいだろう。だが楽しい検査ばかりではない。検便もあれば直腸検査もある。 そして検査を行う医者たちも、とどのつまりは皆ハンターで協会の幹部の間では 自分たちはすでに公知の仲だ。 カイトは溜息をつく。 噂の出所に思い当たるフシはあり過ぎるし、何よりジンが隠そうともしない。 いくらきれいに洗っても検査で少しでもその痕跡が見つかれば、相手は ジンであることは明白なのだからジンだって恥をかくことになる。 ここ一週間は睦みあう閑も無いほど忙しく、高い治癒能力を備えたカイトの体が その一部も含めて極めて健康体に戻っているのは幸いだが、だからこそ今夜の ジンの攻勢は峻烈を極め、それも台無しになるだろう。しかしジンが健康診断ごときで 諦めるとは思えない。それで諦めるジンなら周りに自分達の関係がバレることも なかったはずだ。 そう考えながらカイトはベッドサイドテーブルの引き出しをあけ中を確認する。 コレを使ってうまく行けばよし。失敗したら明日の検査を諦めればいいだけだ。 リスクは少なく試す価値はある。カイトは灯りを消してベッドに潜り込むと いつもジンの寝る側に背中を向けて固く目を瞑った。 寝入る間もなくドアが開く。 「寝ちまったのか?」 ジンはベッドに滑り込むとすぐに体を寄せてくる。 「カーイトっ」 小さく囁かれるのに背を向けたまま体をモゾモゾと端の方へ移動する。 「なんだ、鬼ごっこか?」 楽しげ言って更に体を摺り寄せる。カイトはまたモゾモゾ移動する。 もう後が無い。 「また落っこっちまうぞ?」 洗い髪の香りに交じるジンの匂いが心地よい。 このまま暫く包まれていたいと感じるが その手はもう前に回ってカイトの上衣に侵入している。 グズグズしているヒマはない。 「ジンさん、あの‥今朝も言ったけど‥‥」 「んー‥‥?」 首筋にザラリと舌が這い思わず腰が浮く。 できた隙間にジンがすかさず手を入れ両手できつく抱きしめる。 「俺明日、健康診断で‥‥直腸検査もあるんですけど‥‥」 無駄と知りつつ一応言ってみる。 出来ればあんな物は使わずに済ませたい。 ジンの手がピタリと止まる。 「ああ、そうだったな。検査なら仕方ねぇか‥‥」 迷いを感じる声ではあるが意外な反応。 「はい。すみませんけど」 「いいって、気にしねぇから。 でも‥‥あー、やっぱ面白かねぇな。必要以上に弄らせんなよ? 医者が手袋はめてっか、ちゃんと確認しろ。妙な真似されたら怖いだろうが 勇気だしてデカい声で助けを呼べ。んでその医者の顔と名前を後で俺に‥」 「いや、はぁ、えーと‥‥」 「しかしそういう事なら今日は特に気合い入れねぇとな。 俺の存在と立場ってもんをハッキリさせといた方がお前も安心だろ」 ‥‥だから‥‥どうしてそういう結論に‥‥‥ 着想と感覚のズレに溜息をつくが、ジンはカイトのこめかみに軽く 口付けると「がんばるぞー」と呟いて侵攻を再開する。 ツツと縫上筋を指がなぞる。 体の下から回した手が胸の突起を捉える。 「っ!‥‥ジンさん‥ちょっと待って‥‥!」 「うん‥‥分かってるって、ゆっくりな‥‥‥」 「だから違‥っ、‥‥‥ちょっ‥‥待ってくださいってば!!」 力任せに上体を起こして跳ね除けるとヘッドボードに身を寄せる。 毛布を胸元までたくし上げる。 「何だよ‥‥」 ジンは明らかに不機嫌モードに入ったようだ。 だがここで怯むわけにはいかない。 「あの、聞いて‥‥」 「‥‥‥言ってみろ。もちろん俺にとって楽しいことだよな。 いいだけ焦らしてつまんねー事だったら俺マジ何すっか分かんねぇぞ?」 「‥う‥‥‥まぁ、楽しい‥‥と思いますけど‥」 「ふぅん‥‥それで?」 ちょっと興味を感じたようだ。 「‥‥えっと‥‥楽しい事というのはですね‥‥」 「うん」 「その‥‥‥‥ですね‥‥」 「‥‥ああ」 「‥‥だからその‥‥‥‥早い話が‥‥‥‥」 「‥‥‥‥‥」 ジンの目が殺気を帯びる。 「わわ、ちょっと待って‥‥」 言うより見せるのが早いだろう。 慌ててベッドの端に寄り、引き出しから小瓶を取り出しフタをあける。 中身を一つ、長い指先に摘み上目遣いにそっと差し出したのは 白い小さなカプセルだった。 →Next                       (040519) ------------------------------------------------------------------------ →トップ