「DRUG STORE HUNTER×HUNTER」-03
------------------------------------------------------------------------
カイトがこれを手に入れたのは、もう一年も前のことだ。
カキン王国での調査は長期の契約で休養も定期的にとり
交代でとる長めの休日には大抵ジンのハントを手伝った。
またごく稀にだが調査中にジンから呼び出しがかかり出掛けることもあった。
仲間には悪いと思うが仕事中と分かって呼び出される用件はそれなりに
緊急で仲間も快く送り出してくれた。
その日は遅めの夏休み。まだ残暑が肌を湿らせる9月のことだった。
一仕事終えたジンに誘われ、カイトはオークション見物にヨークシンに来ていた。
競りの開催中は往来に所狭しと並ぶ露天を冷やかしながら2人でブラブラと歩く。
山のように積まれた雑多な競売品を凝で見るとオーラを発しているものが
あると教えられ、それを手に取ってみては批評しあい取りとめのない会話を楽しむ。
「このツボ、いいですね」
「はー、また始まったよ。お前の芸術オンチが」
「俺、そんなヒドいですか?」
「んー俺も芸術ってのはそう得意じゃねぇが‥‥『最後の晩餐』の絵画を見て
パンが美味そうだと言った奴は多分お前くらいだろうな」
「‥‥‥‥」
顔を赤らめてツボを戻そうとするのをジンが押し止め、付けられた札を見つめる。
「‥‥‥?」
「なぁ、ゴンってのはありふれた名前か?」
「‥‥あー!」
「マズいな。裏道を行くか」
そう言って脇の細い路地に入った時だった。
見覚えのある少年が白銀の髪の少年と共に目の前を通り過ぎる。
あちこちに跳ねる黒髪も意思の強そうな大きな黒い目もジンにそっくりだ。
慌てて身を潜めるが少年は携帯電話での会話に夢中で
こちらの方には注意を払わない。
「‥‥勝一敗!変な壷だけ‥‥後はオークションハウスに登録‥‥」
会話の断片が聞こえ少年達は足早に遠ざかっていく。
ほっと息を吐いてジンを見ると路地から首を突き出して
少年の後姿を見送っていた。
「‥‥元気そうですね。もう念も使えるようだ」
「あー、まぁな」
ジンの返事は素っ気無い。
「一緒にいた吊り目の男の子は友達かな。
彼も念を使えるみたいだし、もう仲間を見つけたんですかね。
でもこんなとこで何やってるんだろう?
オークションに出展するようなこと言ってたけど何か珍しいものでも
手に入れたのかな。血は争えないなぁ。一体何を出展‥」
「あーもーうっせぇなっ!んなこと俺が知るかっ!!」
ジンが怒鳴るのに、カイトは笑ったまま口に人差し指を当てる。
「ジンさん似なら、きっと耳もいい。見つかっちゃいますよ」
ジンはフンと鼻を鳴らして顔を背ける。
「念が使えてここに居るなら目当てはグリードアイランドだろ。
今年は大量に出回るって話だから大方資金集めに奔走中ってとこか。
まだまだ見つかる心配はなさそうだな」
「なんだ、お見通しじゃないですか」
「‥‥ケッ 余計なお世話だ」
ジンは路地を出て目の前にあったバイクのレアパーツを扱う露天の前に
しゃがみ込む。笑いを堪えながらカイトも後に続こうと思った時、路地に
並ぶ怪しげなバラックの小窓から薄暗い店内が目に入った。
ジンの様子を窺うがゴンの出現に動揺したのかカイトの視線に
気づかない。店のドアを開け、そっと体を滑り込ませた。
ぐるりと店内を見渡すと男性専門店のようだった。
夜の小道具が乱雑に積まれている。
目当ての品に真っ直ぐに近づき添えられた札の謳い文句を確認する。
『ハンター御用達!どんな屈強なあの人もイチコロでグッスリ!
あとは貴方の思うまま(ハァト)』
バカらしいと思いつつ手に取って店番の親父に渡す。
「アンタみたいな男前でもこんな薬が必要かい?」
卑下た笑いと共に発せられた質問には答えず金を払って店を出る。
まださっきの露天に貼りついてバイクのパーツを吟味しているジンの
傍らに何事もなかったように歩み寄る。
‥‥ああ、必要なのさ。
俺なんかよりずっと男前で信じられないほど屈強な男を眠らせる為にな。
ジンの横顔を盗み見て、そう心に呟いた。
→Next (040520)
------------------------------------------------------------------------
→トップ
|