「G・I にて」-03 ------------------------------------------------------------------------ ‥‥俺って本当、バカだなぁ。 モニターなんだから、色々試してみなきゃいけないに 決まってるじゃないか‥‥。 ジンが照れ隠しに言った言葉を真に受けたカイトは落ち込んでいた。 浮かない顔で、食事を作る。 ジンさん、もう一回チャンスくれるかな。 そうしたら、とりあえず敵の攻撃は全部受けよう。 痛さは数値で報告した方が分かりやすいな。 5段階評価にしよう。 えーと、修行中のジンさんの右ストレートを"5"とすると‥‥ いや、これはダメだ。 いつも気絶しちゃうから、痛さが分かんない‥‥。 「いてっ」 考え事をしながら包丁を使っていると、うっかり指を切ってしまった。 その指を口に持っていこうとすると 「ダメよー!舐めちゃ」 振り向くとエレナがキッチンに入ってくるところだった。 「お疲れ様ね」 「あ、エレナさん。さっきはどうも」 「うん、はい。指出して、消毒するから」 キッチンの片隅に置かれた救急箱から消毒液を取り出して エレナが言う。 「あ、こんなの‥‥大丈夫ですから」 とんでもないという風にカイトが両手を広げるが 「ダメダメ。また岩場なんかに行かさせられて 破傷風になったらどうするの。ホラ、早く!」 強い調子で言われて、反射的に指を出す。 色は白いが確かに男性のものであるカイトの大きな手に エレナの細く柔らかい指が触れる。 そして絆創膏を貼り終えると、 「早く治るように、おまじないっ」 そう言ってエレナが、カイトの指先に軽く唇を当てた。 カイトはビックリしたようにちょっと目を見開く。 「ふふ、なぁんてね!冗談、冗談。 あ、でも。こんなとこジンに見られたら大変だわ。 内緒にしてね」 エレナがいたずらっ子のような顔で軽くウィンクすると カイトは思わずクスリと笑った。 「食事の献立は?」 「えーと、3種の変り種パスタにソースも何種類か作って。 あとスープとサラダバーでバイキングにしようかなって‥‥」 「あら、いいわね。楽しみー!」 楽しげに会話を続ける二人を、ドアの陰から暗い瞳が 見つめていたことに、カイトとエレナは気づくはずもなかった。 パスタを大皿に盛り、食卓へ置く。 手打ちの生パスタは大量に作ってあるし、湯は弱火で温め続けてる。 こうしておけば誰かがおかわりを要求しても、すぐに茹で上がる。 カイトが話し声を頼りにホールへ行くと、皆が頭を寄せ合って ゲームの相談中だった。 寝る寝ると言っていたジンも、その中心にいる。 「バブルホースの泡は、赤と白の2種類でいいんじゃないスか?  青いのは、ちょっと強烈すぎますよ」 「赤、青、白と3色の方がキレイだから、いーんだよ」 「それなら赤青黄の方が自然じゃない?」 「信号じゃねぇんだぞ。トリコロールの方がいい」 「緑も加えると、もっと彩り鮮やかですね」 「‥‥そういう問題じゃねぇだろ‥‥」 頬杖をついたジンが呆れ声で呟いたところで声をかける。 「あの‥‥食事、出来ました」 「「おぅ!」」 「「「はーい!」」」 元気な返事が一斉に返ってきて、揃ってダイニングへ向かい食卓へ座る。 末席に並んで座ったカイトとレイザーは、若い男同士で話が合う。 「じゃあレイザーさんは、いつもはココに居ないんですか」 「そう。ジンが居る間だけ。普段は体育館で寝泊りっすよ」 「体育館?」 「そこでプレイヤーとスポーツ対決するんです。 で、俺を倒したらSSランクのカードが手に入る」 「へぇ、スポーツ対決ですか」 「うん。でもゲームの発動条件が難しいから、まだ当分プレイヤーは 来ないかな。だから体育館も時間をかけて施工して、昨日やっと 全部完成しました。 そうだ、メシ食ったら遊びに来ませんか。体育館に」 「いいですね」 その時もジンは隣のドゥーンとバカ話に興じていたが、その目は全く 笑っておらず、聴覚は限界までに研ぎ澄まされていた。 片付けを終えたカイトとレイザーが城を出たのを確認すると 頃合を見計らって、適当な嘘をついて席を立つ。 そして二人に追いつかないよう、スピードを加減しながら 体育館へと急ぐ。 俺はなんといってもゲームの最高責任者だからな。 完成した体育館は昨日チェックしたが、うっかり 外装を確認するのを忘れちまった。 ゲーム内の建築物の外観は重要だからな‥‥。 何を置いても確認するのは、当然のことだ。 ブツブツと心の中で呟きながら、体育館の裏手へ回り 窓の枠に手をかけてそっと覗き込む。 中ではカイトとレイザーが楽しそうに話している。 「でも球技でレイザーさんを倒すのは、かなり骨ですね」 「いやぁ‥‥それなりのプレイヤーが多いだろうし 油断できませんよ」 そこでレイザーが、ちょっと浮かない顔になる。 「‥‥‥?」 「カイトさんは、どう思います?」 「何が?」 「俺、ジンにプレイヤーと何で対決したいって聞かれて 深く考えずに"スポーツで"って言っちゃったんだけど‥‥。 小さい頃からスポーツ好きで、球技とか得意だったから。 家が貧乏で学校どころじゃなくなっちゃったけど それまで放課後は毎日ドッチボールしてたし」 「うん‥‥?」 「でも、後で聞いたら俺の役どころは海賊だって言うじゃないですか! 海賊なのに、スポーツ対決‥‥変じゃないですか?」 それは確かに‥‥ちょっと変かもしれない。 「やぁでも、ゲームの中のことだし気にすることは‥‥ あ、あの小さいボールは何ですか?」 カイトは言葉を濁し、目に付いたボールに話題を逸らす。 「あぁ、あれはフットサルのボールですよ。 知ってますか?フットサル」 「サッカーのミニゲームみたいな?」 休日に、ジンとテレビで観た記憶がある。 「そうそう。サッカーとの一番の違いは、激しいボディコンタクトが 禁止なことくらいかな。ちょっとやってみませんか」 「ぜひ」 興味を感じたカイトが即答する。 「じゃあ、まずはカイトさんがオフェンスで」 レイザーがポンとボールを蹴って寄こしたのを合図に 二人はゲームを開始した。 →Next ------------------------------------------------------------------------ →トップ