「G・I にて」-02
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カイトがゲーム機に手をかざすと、体ごと掃除機に吸い込まれるような
強い引力を感じ一瞬でメカをモチーフにした物々しい部屋に移動していた。
「カイトくん、いらっしゃーい。やっと来れたわね。
ジンがお待ちかねよ。」
見上げると、エレナがにっこりと微笑んでいた。
水見式を行ってから、3ヶ月が経っていた。
タイミングを逃せないハントがいくつか重なり、なかなか
グリードアイランドへ行く時間が作れない。
しかしジンは頻繁に仲間と連絡をとり、ようやくカイトにも
グリードアイランドとはジンが作ったゲームであること。
ゲームといっても島は実際に存在し、プレイヤーは念によって
ゲームスタートと同時に島へ飛ばされることなどが分かってきた。
そしてやっとまとまった時間がとれると二人してグリードアイランドへ
旅立ち、あとは海を渡るだけという時にジンが言った。
「お前は明日、プレイヤーとして島に来い。
俺はゲームマスターだからな。プレイヤーとしてゲーム内に入ると
システムがいじれなくなっちまう。
ああ、そうだ。お前のプレイヤー名だが‥‥‥まぁいいや。
エレナに言っとけばいい話だ。じゃな」
そんなわけで、ジンに遅れること一日。
カイトはグリードアイランドへやってきた。
本来はこの部屋でルールの説明が行われるのだろうが
エレナの「一日ここに座ってると腰が痛くなる」という愚痴しか
聞けず外へ出る。
広い草原の大きな木の下にジンが立っていた。
「よぉ。ようこそグリードアイランドへ」
ジンは腕を組んだ笑顔でそう言った。
「早速で悪いんだが、ちょっと寝不足でな。
まずは一旦、城へ戻る」
「城?」
「ああ、グリードアイランド城。
ゲームをクリアしたプレイヤーが最後に訪れる城だ。
ドゥーンとリストはそこに住んでるし、俺もお前も
ここに居る間はそこで寝泊りだ。」
いきなりエンディングの場面に行っていいのかぁ。
俺、モニターとして来たんじゃなかったっけ‥‥。
いまいちゲーム内にいるという実感が湧かないままに
カイトはジンの後を追った。
城に着くと、カイトもよく見知った顔が揃っていた。
ジンの仲間たち。
ハントで行動を共にすることもあれば、特に用は無くても
ジンとカイトの家に遊びにきたりする。
そんな時はバカ話で盛り上がり、何日間か滞在して
カイトの修行相手になってくれたりもした。
「よーカイト!でかくなったなぁ」
ドゥーンはいつ会っても同じように言う。
その横でリストが、これもいつものようにニコニコと微笑んでいる。
イータの顔も見える。
「あれ、イータさん。ゲームの方はいいんですか?」
入口に座ってたのがエレナなら、出口にいるのはイータだろう。
「うん、自動操縦にしてきちゃった。
だってカイト君に会うの、久しぶりだもん。元気だったー?
エレナももうすぐ、ここに来るわよ。」
「カイトさん。これ、部屋の鍵。
部屋は2階に上がってすぐ右手が空いてます。
後で新しいシーツ持って行きますから」
レイザーはまだ、カイトを"さん"付けにする。
ジンの仲間としては新顔だし、雇われている身というので
遠慮してるのだろう。寝泊りする部屋の用意や雑用も
自分から引き受けてるらしい。
「あ、すみません‥‥」
カイトが手を伸ばすと、ジンがそれを横からかすめ取り
レイザーに返す。
「いいんだ、コイツは。俺の部屋に泊めるから」
ぶっきらぼうにジンが言う。
「え、でも部屋は沢山あるし。気にしないで・・・」
ジンが遠慮したと思ったのだろう。
レイザーが言いかける。
「ウォッホ‥‥ンン‥‥ン」
ドゥーンの城中に響き渡る咳払い。
「あー、ゴホン‥‥ゴホン‥‥」
「んん‥‥ケホンケホン!」
リストやイータまでもがそれに続く。
レイザーが見ると、ジンはとぼけた顔で天井を見上げ
カイトは真っ赤になって俯いている。
そこに至って初めて自分の失言に気づいたレイザーは
慌てて鍵をポケットにつっこんで
「あ!そういえば、あの部屋。
床が抜けて使えなかったなー‥‥」
などと白々しくつぶやいた。
何となく皆が下を向いて黙ったが、ジンが口火を切る。
まだ耳まで赤くしているカイトに向かって、何事もなかったような
平気な口調だ。
「んーと、ごつごつした岩場にでかいトカゲがいるから
倒して来い。ランクEの割には難易度が高いってんだがな。
じゃー俺は寝るから、帰ったら報告しろよ」
言い終えると、とっとと階段を登って行ってしまう。
「もー‥‥それだけじゃ分かんないじゃないよね」
「あのねカイト君。このカードを使えばマサドラっていう街まで行けるから‥」
リストが小声でそう言うと
「おい、カード使わせんな。カイト、走ってけっ!」
と2階からジンの大声。
リストは「はいはい」と呟いて、取り出しかけたカードを仕舞う。
そして岩場までの道順を丁寧に教えてくれた。
「すみません‥‥」
カイトは何となく、ジンの分も謝った。
カイトが城に戻ると、ジンはホールでドゥーンと話しこんでいた。
「ただ今戻りました。ジンさん、もう起きたんですか?」
「まだ寝てねぇ。お前が帰ってくんのが早ぇんだよ。
で、トカゲは倒したか?」
「あ、はい‥‥」
急いでブックと唱えてカードをジンに渡す。
「イチイチ見せなくていいって。倒したのは分かってんだから。
早く仕舞えよ、こんなとこでアイテム化したらどーすんだ!」
矢継ぎ早に言われて、あたふたとカードを戻す。
「戦ってどうだったんだよ。難しかったか?」
「えと‥‥簡単でした」
「時間はどれ位かかった?」
「5分くらい‥‥」
「ふぅん‥‥じゃ、馬はどうだった。
泡を吹く馬がいただろ」
「はい。捕まえました」
「シャボンに当たって痛かったか?
衝撃が強すぎるって話なんだが」
「‥‥分かりません。えと‥‥」
「分かんねぇってことないだろ!
まさかビックリして気ぃ失ったのか!?」
「いえ、1つも破裂しなかったので‥‥」
「‥‥‥全部、よけたのか?」
「白い泡が岩にぶつかっても割れないのを見て、当たりそうになったら
絶をしました。赤い方はだから、その逆かなって‥‥。
青いのはヤバそうな感じがしたから、堅で防いだら破裂しませんでした」
「‥‥‥‥‥」
ジンが黙ると、向かいに座ったドゥーンがプッと噴出す。
「なぁジンよ。カイトを連れてくるのが、ちっとばかり
遅かったようだな」
「うるせーよ。俺の弟子なんだから、当然だ。
しかし‥‥ったくもぅ、しょうがねぇな。これじゃモニターとして
役に立たねぇ」
ため息をついたジンに、カイトが慌てて言う。
「あの、俺、もう一回行ってきます。
シャボンに当たってきますから‥‥」
「いーよいーよ、もう。お前はモニター、クビ!
起きたらメシ食うから、作っといてくれ」
ジンはガシガシと頭をかきながら席を立つ。
その照れて誇らしげな表情は、太い腕に隠れてカイトには見えない。
「すみませんでした‥‥」
クビと言われて肩を落としたカイトに
「あぁ、今度から気をつけろよ」
そう言い残してジンはホールから出て行った。
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