「G・I にて」-01
------------------------------------------------------------------------
その日、ジンは約束を忘れていなかった。
かつてジンとカイトが世話になった船長の孫息子に会い
彼が偶然身につけてしまった念を制御できるようになったのを
確認した帰り道。
「じゃあ帰ったら、いよいよ水見式をやるとするか」とジンが言った。

船長の孫息子・・・名前はシルクといったがその名の通り
滑らかな白い肌を持つ、間近で見るとさらに美しい少年だった。
その容姿、その若さで天才的な科学者というのだから
天は二物を与えたものだ・・・。
シルクを目の前にしてカイトはそう思い、横のジンをチラリと見たが
ジンはろくにシルクの顔も見ず、念のチェックに余念がない。

「うん、いいようだな。これで勝手に念が発動して
 周りの人間の気分が悪くなったりはしないだろ」

ジンがそう言うと、シルクは尊敬と感謝以上の感情を込めた視線を
ジンに向け、何か礼をしたいと何度も言ったが、ジンは頑としてそれを
受け入れない。

「あんたのジーサンには世話になったからな。
 礼というなら、ジーサンにしてやれ。
 肩でも揉んでやったら喜ぶぞ」

そう言い残して、あっさりと彼と別れた。

「よかったんですか?」

「何が?」

「いや‥‥その、すいぶんあっさり彼と別れたから」

ジンは、プッと噴出すと

「何だ、おめぇはまだそんな事言ってんのか。
 全く俺の事を何だと思ってんだか‥‥。
 若い男なら何でもいいって訳じゃねぇんだぞ?」

彼は若いだけじゃない。美しくて才能がある。
もし彼が船長の身内じゃなかったら、ジンさんはどうしたかな‥‥。
しかしカイトのそんな物思いを見透かしたようにジンが言う。

「顔がきれいだから手を出すとか、ジーサンの孫だから手を出さないとか、
 んなこと一切関係ねぇよ。俺がどういう相手にグッとくるか‥‥
 まぁお子様のお前にはまだ分からねぇかもな。
 大体お前みたいに手間のかかる弟子がいちゃ、色恋してる
 暇なんてないっての」

お子様と言われてちょっとムッとしたが
ジンの軽い調子に思い悩む自分が馬鹿らしくなった。

俺って案外、焼き餅やきなのかなー

情けなくなって黙り込むと、ジンがカイトの頭をくしゃりと撫でた。




家に着くとジンが言う。

「グラス。透明の」

キッチンへ急ぎ食器棚から手ごろなグラスを持ってくる。

「葉っぱ。これっくらいの」

ベランダから出て、庭の木から葉をもぎ取る。

「グラスに水。目一杯な」

再びキッチンへと走る。
絶対一回で言わないで、小出しにすんだよな‥‥と思いつつ。


「さぁいよいよだ。グラスに手をかざして、練をやってみろ。」

言われた通りにする。
すると葉には変化はなく、水中に青く透明なガラスの破片のようなものが
いくつか薄く現れた。
「ふーん、具現化系か。まぁそれ程意外でもないか」

「‥‥‥?」

「具現化系ってのは念を物質化する能力だ。
出したり消したり。面白しれーぞ」

面白いとかいう問題なのかなぁ‥‥。

ジンは紙に六角形を描き、念の六つの属性について説明し、
ついでだが、といってオーラ別の性格分析まで教えてくれた。

「まぁお前は神経質ってより、ただの几帳面だがな。
自分の面倒に関しては結構適当なとこもあるし、
誰が考えたんだか知らないが、これはあんまり当てにならんな」

適当かぁ。

そう言われても、否定はできない。

ジンさんは何系なのかな?
イメージを作り出したり、なんてこと無い日用品に念を込めたり
何でも出来てるみたいだし・・・。

色々頭では考えるが、口には出さない。

「俺はお前に他の4系統の修行もまんべん無くやらせてきた。
サボらずバランスよく続ければ、他の能力も底々身につくし、
何より自系統の能力の底上げになる」

しかしジンの話は何となくカイトの疑問への受け答えになっている。

意外とジンさん、特質系で俺の心の中が読めたりして・・・。
性格分析を聞いた限りでは強化系以外あり得ないって感じだけど。

「しかし特質系だけはいくら修行してもどうにもならない。
生まれつきか、育った環境が影響するからな。
どうせ俺は単純バカだしな。人の心を読んだりとかの特質系だけは
どうにもならん」

‥‥‥‥本当かなぁ!??

カイトの疑いの視線には気づかぬ風で、ジンは続ける。

「ところで話を戻すが、お前何か、コレを具現化したいっていうモノあるか?」

すぐには思い浮かばない。

「まだよく、わかりません」

「うん、そうか。それでいい。具現化系ってのはバランスが難しい。
 物質化する為のイメージ修行にも時間がかかるから
 どんな能力にするか慎重に決めないと、選択を誤るとやっかいだ。
 その分その能力がツボにハマればすごい威力を発揮して
 お前次第じゃ強化系を極めた者にだって負けない力を身につけられる。
 なんつーかまぁ、そのギャンブル性が案外お前に合ってるかもな」

「‥‥‥‥。」

ギャンブル性、か‥‥。
具現化系の特性についてはまだよく分からないが、何となくその言葉が
耳に残った。

「だから、そうだな。まずはゆっくり考えて‥‥。
 実際に具現化を行うのは、もう少し先送りにしよう。
 それまでは今まで通り、練の持続と攻防力の移行、それと系統別の修行もな。
 この辺の修行に終わりは無いし、やりすぎってことはない。
 ‥‥そうだ。それにはグリードアイランドへ行くのが丁度いいんだよな。」

そこへ連れて行ってやると、ジンは以前にも言っていた。
一体、どんな所なんだろう。

「ランニングチェンジが必要だからとエレナやイータもうるせぇし
そろそろ打合わせしとくか」

そう言うとジンは電話を手に取った。

→Next
------------------------------------------------------------------------
→トップ