「夢で会いましょう」-1
捻挫した‥‥こっ、転んで‥‥。
こんなとこ、誰かに見られたら‥‥!
患部を冷やそうと、慌てて四ツ這いで海に向かうところも。
服がめくれあがって砂だらけになった背中も。
全部見られてた‥‥。
だって、ここはグリードアイランド。
千里眼の双子に守られた冒険の島。
駆けつけたレイザーに負ぶわれ、帰り着いた城でジンにゲンコツを食らい、イータが持ってきた包帯と湿布でリストが治療し、エレナが顔の砂をタオルで拭き、ドゥーンが飴玉をくれた。
だって、ここはグリードアイランド。
強力な保護者達の住む、俺の第2の故郷。
そんなわけで俺は、麗らかな日差しの小春日和に、城での引きこもり生活を余儀なくされた。
気絶するほど退屈だが、昨夜こっそり歩き回るのをジンさんに見つかり気絶するまで殴られた俺は、大人しくベッドに横たわっていた。
枕元には数冊の漫画が積み上げてある。
その漫画の作者はなんとドゥーンさんで、新刊が出るたびにミリオンセラーの大ヒット中のシリーズだ。
『ふんたー かける ふんたー?」
『あーいや、”かける”は読まなくていい』
『そうなの?』
『あと英単語の読み方な。後で辞書持って来てやるから、自分で調べろな』
『うん』
『面白いか?』
『よく分かんない‥?』
『え、マジか!? 小学生も読むから分かりやすく描いてんだが、どの辺だ!?』
『だって、いきなり”出発の日(完)”って‥‥終わっちゃったみたい』
『あぁ〜!!お前、横書きの本ばっかだもんな! 漫画っつーのはなぁ、右開きなんだ』
『へぇ‥‥こっちから? 絵がいっぱい並んでる。ドゥーンさん、絵上手いね』
『そーかそーか、上手いか! 気に入ったか!? 右上からな、ひっくり返した”Z”の形の順に読め』
『うん‥‥いいなぁ、釣り。俺、ほんとは今日ジンさんと釣りに行く約束だったんだ』
『またいつでも行けるだろ。俺も連れてってやるよ』
『ホント!?』
『あぁ、ホントだ。足が治ったらな』
『やったっ!‥‥この男の子、ちょっとジンさんに似てるね』
『そういう設定なんだ』
『そういうって‥‥? あっジンさんっ!?』
『まーゆっくり読めや。じゃーな』
ニヤニヤしながらドゥーンさんが出て行った後、俺は夢中で読んだ。
カ、カイトって‥‥俺と同じ名前の、俺よりもずいぶん年長の男も出てきた。
これ、俺がモデル‥‥なのかな‥‥?
でも俺、こんなチャラチャラ腰まで髪伸ばしたりしないし。
この帽子も刀もジンさんの持ち物だし、こんな怖い顔じゃないし‥‥。
大体、ライセンスを落っことすなんてハンターとして間抜けすぎる。
転んで捻挫してる俺が、言うことじゃないけどさ‥。
レオリオってイイ奴だな。
俺が試験受けに行ったとき、このヒソカみたいな奴がいたら嫌だなぁ。
そういやジンさんにも、試験管の依頼書が来てたっけ。放ったらかしになってるけど。
サトツさんて人、義理堅そうだもんな。ジンさんと違って。
少年の冒険は続く。
父親の残した手がかりを辿り、このG.Iにも訪れる。
凶悪な手段でゲームのクリアを目指す3人の男たち。
ジンはこういう奴らの出現も予測してると言っていた。
レイザーの過去も、この島の秩序を乱す者への厳しい制裁も、現実そのままにリアルに描かれ胸に迫る。
もしも実際にボマーのような男たちが、あの体育館にたどり着いたら‥‥。
レイザーなら、きっと打ち負かして追い払ってくれるに決まっている。
技、体力、精神。目まぐるしく成長をとげる少年。
次々と立ちはだかる壁との息詰まる攻防。
ジンの血を受け継ぐ子がいたら、きっとこんな子供に育つだろう。
銀髪の少年にエールを送りたい気持ちも強くなる。
スラムと暗殺一家という違いはあれど、自分と同じように過酷な境遇で育った。
自由を欲し、信じられる者に出会えた喜びにも身に覚えがある。
いつしか日が暮れて、島に、城に、カイトの横たわるベッドに、優しい夕闇が訪れる。
暗がりを察知し、オートスイッチのスタンドがカイトの横顔を淡いオレンジ色に照らす。
ページをくぐる指は止まらない。
月が中天を過ぎても。