「俺の名はカイト」

俺の名はカイト。強く優れたハンターを目指して、師匠の元で修行中だ。
そして師匠のジンさんは、世界一スゴ腕のハンターだ。もちろんハンターとしてだけじゃなく、男としても人間としてもスゴい。 どこがどうスゴいかって聞かれると、正直うまく説明できない。でもとにかくスゴい人だ。
何をしたって上手く出来るし、最強だし、頭いいし、顔もいいし、何でも知ってるし、それに優しいし。 でも本当は、そんな事だけじゃないんだけど。
ジンさんのスゴいとこは他にもいっぱいあるんだけど、いっぱいありすぎてうまく説明できない。 全く俺は、何をしても上手く出来ない。どうしてあんなスゴい人が俺なんかを弟子に してくれたのか分からない。時々俺を困らせて面白がったりするけど、あんなにスゴい 人なんだから、ちょっとくらい冗談が過ぎるのは仕方が無いと思う。

ジンさんと俺は、ハントで世界中を飛びまわる。ここ最近も世界各地を回って、今のハントに必要な情報の 聞きこみをしてた。 たくさんの街に行って、ジンさんの知り合いに会って、知り合いじゃない人にも会って、 面白い話をたくさん聞いた。
ジンさんは本当に顔が広い。一声かけたら、わざわざ宿から出なくても情報提供者はワンサと 集まってきた。でもジンさんは、ずっと宿にいるのは退屈だと言って、どんどん出かけて出かける たびに知り合いは増えて、俺も色んな人に会うのはすごく楽しかった。 あっと言う間に必要な情報は集まって、一旦整理して準備して出直そうってことになって、 今日はだから久々に家に戻って来た。

帰ってからは飯作って食べて、集めた情報を少し書類にまとめて寝た。そういえば飯の後、俺が流しで片付けしてたら ジンさんが来て、‥‥‥えーと、キスされた。夜布団に入ってからは、セックスもした。
今更っていえば今更だけど、考えてみればジンさん、どうして俺にああいう事するんだろう。 俺なんかとあんな事して、楽しいのかな。わざわざこんな痩せっぽっちの男のガキじゃなくたって、相手に不自由しないと思うんだけど。
 
ジンさんには、ビックリするような美人の知り合いだっていっぱいいる。
スタイルが良くてオシャレで頭も良くて、美人。職業はハンターだったり飛行船のアテンダントだったり、世界で活躍する女優さんやモデルさんも少なくない。 ああいう人達が知り合いにいて、よく俺とあんな事する気が起きるよな。 彼女達とは普通に友達って感じだけど、ジンさんはモテるから、その気になれば付き合うの なんて簡単だと思う。
実際、ジンさんが居ない時にコッソリ、「今ジンさんには特定の彼女がいるのか」って 聞かれる事がよくある。そう聞く女の人は、ジンさんの事が好きで、恋人になりたいんだよな。 俺はハッキリ言って、あんまりいい気持ちはしない。なんかムカついてイライラして、気分が悪くなる。 優しくて美人で、良い人だなって思ってた人なのに、なんでだろう? 我ながらウンザリだ。
多分、ジンさんがその人と付き合ったら、俺と一緒に過ごす時間は減るし、稽古つけてもらえる 時間も減るし、ハントの時間も減って楽しい事も減るし、それに‥‥‥‥‥。
それにもう俺になんて、触ってくれなくなると思う。
要するに、ガキの独占欲とワガママだ。こんなだから、いつまでたっても俺はジンさんにガキだガキだって言われるんだよな。 そんな俺の下らない自分勝手でジンさんの恋愛を邪魔するなんて弟子失格だ。

だから女の人に聞かれたら、俺は突っぱねたりしないで正直に「よく分からない」って答える。
大抵の人は、「そうだよね。子供だもん、分かんないよね」なんて言って諦める。
子供だから分かんないっていうより、ジンさんの行動を全て把握してる人間なんて居ないと思うけど。
でもたまに「四六時中一緒に居るくせに、分からないはずない」って責めるみたいに言われる時もある。 そんな時は仕方ないから、ちょっと無責任だなって思いつつ「俺が知ってる範囲では居ない」って答える。本人に直接聞けばいいのに、何で俺に聞くんだろ。 こないだもシツコク聞かれて仕方なくそう答えたら、間がいいのか悪いのか、ジンさんが戻ってきてて話を 聞かれてしまった。

別にジンさんに聞かれて困るようなことは何も無いから俺は普通にしてたけど、 女の人はジンさんの顔見てすぐ逃げて行っちゃった。見たら逃げ出すのも無理ないって思った。
すっげー怖い顔‥‥‥。
その後もジンさん、すっごく機嫌悪くて口きいてくれないし、俺の飯がマズいって言って 一人で外に行っちゃうし、散々だった。 俺が知らないだけで、ほんとは付き合ってる人が居たのかもしれない。 それともあの女の人が嫌いで、言い寄られるのが嫌だったのかな。
考えたけど、結局よく分からなくて、これからは女の人にジンさんの事聞かれても一切答えないで おこうと決めた。 外から帰って来たジンさんにも、ちゃんと謝って「もういい加減な事言わないで、俺はただの弟子だから 分からないって正直に言います」って約束した。 でもジンさんは、呆れたように溜息をついて何も言わず寝室に行って寝てしまった。 次の日からはいつも通り修行はしてくれたけど、会話は少ないし、キスもしないし、 夜も何もしてこない日が続いた。
どうしていいのか、分からなかった。

恋人が居ないって言ってもダメ、分からないって言ってもダメ。俺は一体どうすりゃいいんだ!?
悩んだけど、もう選択肢は一つしかない。「ジンさんには恋人がいる」って言うしかない。
辛抱強く待ってると、今日やっとチャンスが巡ってきた。
ドアのすぐ外にジンさんの気配がある時に、知り合ったばかりのとびきりキレイな女の人が
「ジンに恋人はいるの?」って聞いてきたんだ。
俺は大きな声ではっきりと、「ジンさんには決まった恋人がいます」って言った。
女の人は不愉快そうな顔で出て行って、入れ替わりに入って来たジンさんは何も言わなかったけど 機嫌は直ってた。‥‥‥ような気がした。だって可笑しそうに笑ってたから。ジンさんの笑った顔、久しぶりに見た気がした。

良かった。ジンさんに本当に恋人がいるかどうかなんて、どっちだっていい事だ。
俺の知ってる限りでは居ないんだし、いつまでかは分からないけど、今はほとんどの時間、俺に傍に居させてくれる。 だからジンさんの機嫌が直ったなら、本当の事なんてどうでもいいんだ。
ジンさんが腹減ったって言ったから、一緒にスーパー寄って帰った。ジンさんの好きな食べ物をいっぱい買って帰った。

そんで食い終わって後片付けしてたら、キスされたんだ。
すごく久々で、なんだか酷く恥しくなって、すぐに顔離した。 洗い物してるからって言って、追っ払ってしまった。 でもジンさんは笑ったまんまリビングに戻ってった。
その時なにか言った気がしたけど、水音でよく聞き取れなかった。
分かっちゃいねぇんだろうけど‥‥‥‥‥‥‥とか何とか。
どうやらジンさんに関して、俺には分かって無い事がまだまだたくさんあるらしい。
でもジンさんは世界で一番スゴい人なんだから、それは仕方が無いことだと俺は思う。

end.                                                 (050126)

カイトさん18歳くらい? てか、どちらのカイトさん?
こんな乙女なカイトさんはハンター世界には居ませんぜ;
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