「真夏の夜の‥」 ------------------------------------------------------------------------ 真夜中の寝室。 昼の陽気な暑さとは異なる乾いた熱が闇と交じり合っていた。 ベッドの上に蠢く人の気配。 掠れた声が静寂を破った。 「‥‥なにモゾモゾやってんだ」 「‥‥あの、‥‥‥‥‥痒い‥」 「‥‥‥あ?」 ジンが毛布を跳ね上げ、カイトも緩慢な動作で身を起こした。 ヘッドボードに背中をくっつけ、クスンと一つ、鼻を鳴らす。 「見せてみろ」 おずおずと上衣の裾をめくり上げ、パジャマ下のゴムを僅かに下にずらす。 臍の横と脇腹、腰骨の上に一つづつ。 ぽっちりと赤く腫れていた。 「あー、蚊にさされてんな」 ジンは言うと、サイドボードの引き出しに手を伸ばす。 「お前、何だってそんなとこ‥‥俺が寝室に来る前に一人で何かしてただろ」 「何もしてない‥‥‥風呂に入った後、暑かったから‥‥」 顔を赤らめて小さな声で答えるが、ジンは聞いているのかいないのか。 闇の中、ジンの表情は見えない。 「俺は刺されねぇからな。薬なんて‥‥‥あ、あったあった」 「ジンさん、虫に刺されないんですか」 「‥‥あぁ、訓練次第で肌も強化されっからな。 普通の状態でも虫なんかにゃ刺されねぇな」 言いながらカイトの前にあぐらをかき、大きな手が 薬のチューブのキャップを暗闇の中で器用に回す。 自分で塗るのに‥‥‥ 黙って口をへの字に結び、大人しく衣服をめくったまま待った。 徐々に暗闇に慣れた目でジンの手元をジッと見つめた。 硬く日に焼けた指の腹が、白く柔らかな腹の皮膚を軽く圧しながら ふにふにと薬をすり込む。 痒みが追い立てられるように消え去り、代わりにヒリヒリと刺激を感じた。 「しみるか?」 ジンは顔を寄せて口先をすぼめると、フゥと長い息を吹きつける。 耐え難い痒みも、小さく神経質な痛みも、 みんなジンの乾いた息に乗って散っていく。 カイトは安堵の息を吐き、心の中でそっと独りごちた。 早く、一人前のハンターになりたいな‥‥‥ 軽く視線を巡らせたジンがパチンと一つ、手を打った。 ――――カイト、○歳の夏だった。 end.                     (040713) ------------------------------------------------------------------------ →トップ