「favorite」
------------------------------------------------------------------------
ジンさんが負傷した。
俺を庇って。
今、両目が見えない。
包帯でグルグル巻きだ。
目が見えてないなんて、嘘みたいだ。
でも疲れるみたいで、夜はいつもより
ぐっすり眠ってる。
何でも自分でやるけど
メシだけは自分で食わない。
「‥‥‥ぁ」
俺の前で無防備に口を開ける。
「‥‥はい」
ジンさんが咀嚼する。嚥下する。
オトガイ舌筋が動く。
顎二腹筋が収縮する。
「カイト」
「はい」
「こういう時は"あーん"って言うんだ」
「んなこと恥ずかしくて言えません」
「そうか」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥ぁ」
「‥‥はい」
咀嚼。嚥下。
ジンさんが機能している。
見蕩れる。
「鯖、美味いな」
「好きですか」
「鯵の次だな」
「そうですか」
「‥‥‥ぁ」
「‥‥はい」
咀嚼。嚥下。
「話してたら、食いたくなった」
「‥‥刺身ですか、開きですか」
「‥‥‥開き」
「‥‥‥」
「‥‥‥」
「‥‥‥‥あーん」
「‥‥‥ぁ」
咀嚼。嚥下。
「明日、鯵な」
「はい」
「‥‥‥ぁ」
「‥‥はい」
end.
------------------------------------------------------------------------
すみませんm(_ _)m
→トップ
|