「続・約束」-01 ------------------------------------------------------------------------ 奴らの巣が見える。 遠く霞んではいるが、その威圧感ですぐ目の前にそびえ立つ様に見える。 ゴンとキルアがNGLへ来て、すでに数日が経っていた。 来てからは、巣の外に出た兵隊を片付けていく作業を黙々とこなした。 計算よりもずっと早く、すでに王が産まれている。 もう一刻の猶予もならない。 明日はいよいよ巣に侵入し決戦という日を迎えていた。 「あと巣に残っておるのは、数名の師団長と王直属の護衛隊。 何にせよ、まず明日目指すべきは王じゃろ」 ネテロ会長が巣を見据えたまま言う。 「会長もお気付きでしょうが、数日前から、巣から明らかに人間のものと 思われる強力なオーラが断続的に確認されてます。かなり強い。 しかし何というか、非常に不安定・・・というのとも違う。 強いのに、なにか頼りないような、濁ったような・・・。 会長から伺っていたカイトという人物のイメージとはかなり違うので 別人のものとは思いますが・・・」 「カイト?」 「カイトを知ってるの?」 ノヴの話を聞き、思わず二人が振り返り、会長が答える。 「うむ。お前達の探しておるのはジンの愛弟子のカイトじゃろ。 こんな小さな・・・そう、カイトがお前達の歳ぐらいの時から知っとるわ」 兵隊を始末しながらこの周囲は隈なく捜索したが カイトを発見することは出来なかった。 巣に捕らわれているとしたら・・・ ノヴが考え考え、ゆっくりと話す。 「もしそのオーラがカイトさんのものであれば、操作系の念能力を 身につけた蟻に操作されている可能性が高い。 別人ならば、すでに女王に喰われたか、殺されて貯蔵庫に 置かれているか。生きて貯蔵されている可能性も無くはないが・・・ 奴らにとっては危険でもあるレアものを、捕らえて生かしておくことは まずないでしょう。 まぁ明日巣に入って王を始末した後に、ゆっくり探してみることです」 一言一言が胸に突き刺さる。 しかしノヴは間違った事を言ってるわけじゃない。 ゴンはノヴの話にというよりも、カイトは生きていると信じる気持ちを 確認するように、こっくりと頷いた。 しかしそんなゴンを憐れむような目で見た後、そっとその場から離れた 会長を、キルアは見逃していなかった。 全速力で走る。 まっすぐ巣の中心に向かう会長たちとは入り口で別れ 外壁を伝うように巣の中を走る。 敵が後方に退いた場合、挟み撃ちにする計画だが ゴンとキルアにはカイトの姿を探す目的もあった。 そしてそれは、あっけないほど簡単に見つかった。 柱の陰から、ゆらりと現れる人影。 長い金髪。細身の長身。 「・・・・カイトっ!!」 歓喜の声を上げて駆け寄ろうとするゴンをキルアが押し留める。 「・・・待て。あれはカイトじゃない。」 怪訝な顔でキルアを振り返ったゴンが、再びカイトを見る。 土気色の肌。白い唇。 目は死んだ魚のように淀んでいる。 「カイト・・・・」 ゴンのつぶやきに、キルアは警戒を高めながら答える。 「驚くことじゃないさ。操作されてるってんなら上等だ。 操作してる奴を倒しゃいいんだから 殺されてるより、ずっとマシだ」 「・・・そうだね。 じゃあまず、その念の使い手を見つけなきゃ」 「ああ、そうだな。ここは一旦退いて・・・」 そう言いながら、キルアが足を一歩、後方に退くと カイトの肩先がぴくりと動いた。 ・・・・動けない。 動けば、殺られる。 すでに額にじっとりと汗をかいていた。 2人がかりで全力で戦っても、まだ敵う相手じゃない。 ましてや相手の命を気遣いながら、手加減して戦うなんてことが 出来るわけはなかった。 「下がってろ。お前らじゃ無理だ」 突然、背後からの声。 全く気配を感じなかった。 驚いて振り返ると・・・・ 「ジンっ!!!」 写真でしか知らない父親の顔であったが 見間違うことはない。 何故、ここに・・・。 「ゴンか。久しぶりだな」 呆然とするゴンの顔を、ジンは見もせずに言う。 その声にも顔にも、再会を喜ぶ様子は見られない。 「ジン・・・ジン!カイトが・・・!」 「うるせー黙ってろ。下がってろって言ったはずだぜ」 そう言いながら、ゴンとキルアの前を通り過ぎ、 カイトと二人の間に立ちはだかる。 おそらくは強烈なオーラをその身から発しているのだろうが ゴンとキルアの目には見えない。 しかしそれまで体に感じていた重々しいオーラが ジンの背後に回った途端、一瞬にして軽くなったのを感じる。 もう、同じ過ちは繰返さない。 ゴンとキルアは頷き合うと、後方へ大きく跳びずさった。 「確かに姿形はカイトだが、お前はカイトじゃない。 あいつのオーラは淀みがなく、そんなに薄汚れちゃいなかった。 生きてる人間のオーラじゃない。今、お前の中は空っぽだ。 なぁ、そうだろ?カイトの顔した木偶人形さんよ・・・」 何の構えも見せずに立ったまま、ジンが静かに言う。 その声は、怒っているようにも苦しんでいるようにも そして自分自身に言い聞かせているようにも、ゴンには聞こえた。 →Next ------------------------------------------------------------------------ ブラウザ back