「イエティ伝説殺人事件」-03
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確かにその光景は、幻想的で美しかった。
光源の一切ない闇の中、無反射の灰色の雪は上から降ってくると
いうよりも、下から左右から四方八方に吹き上がって、他の一切の
雑多な障害物を視界から奪っている。
踏みしめる足元は抵抗なく地面に埋まっていき、遠近感も無く
無重力空間を漂っているという錯覚を覚える。
きれいはきれいだが・・・・寒いよな。
念で体を覆いつつ歩き続ける。
流動的に体内外にオーラを廻らせるので、血管が収縮せず
凍傷になる恐れも無い。
しかし体に感じる寒さは防ぎようがない。
しかも、ふと横を見ると1メートル先には地面が無かったりする。
下はどうなっているんだろうなぁ・・・・この視界の悪さじゃ
動体視力も落ちるから、1番下まで落ちちゃうだろうなぁ・・・。
緊張と寒さで、徐々に体力が落ちてくる。
もう5時間も、歩き続けたろうか。
ジンはカイトの前を一定のペースを守って歩いていたが
突然立ち止まり、くるりと振り返った。
「思ったんだが・・・・こう視界が悪くちゃ、安いメロドラマみたいに
曲がり角でバッタリ出くわさない限り、イエティを見つけるのは
難しそうだな」
「・・・・・・・そうですね」
「あ、お前今・・・お互いの顔が見えないのをいいことに
"だから言ったじゃねーか"って顔しただろ!!」
「・・・・・・・してません」
確かに、目の前にいるジンの顔が霞むほどに
吹雪はひどくなっていた。
「どうしたもんかな。一旦宿に戻ってもいいが、今かかったのと
同じ時間がかかるよな。そんで明日また出直しってのは面倒だし。
ここいらで、キャンプを張るか。さっきの雑木林の下あたりに
雪で囲いを作って・・・・しかし暖をとる燃料は無いから
さすがに寝るのは無理だよな。百物語でもして、夜を明かすか・・・」
「・・・・・・・そうですね」
「あ、お前今、」
「してません」
しかし雑木林があったことなど、カイトは全く気づかなかった。
さすがだなと思う。だから命の危険を感じて不安になるような必要はないが
出来れば今後に備えて休養はとっておきたいところだ。
「そういえば、麓から北西の方に向かった3つ目の山の7合目くらいに
山小屋があるはずです。今はまっすぐ北に進んでるから・・・」
そう言って地図とコンパスを取り出そうとすると、ジンはスタスタと
歩き出す。
「山小屋があるとは、気がきいてるじゃねぇか。
でもまだ人間が出入りする区域ってことだよな。
明日はもーちっとペース上げるか」
「もうほとんどプロの・・・それもごく一握りの登山家以外はいない区域ですよ。
その山小屋も一般の持ち物ではないと思いますが・・・」
答えながら、やっと地図とコンパスを確認すると
ジンが向かっている方角は、ドンピシャリだった。
なんで方向がわかるんだろう。
道標になるものなど、全くないというのに・・・・。
カイトはちょっと溜息をつきながら、遅れないように慌てて後に続いた。
to be continued.
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